1.初期治療
・ 第一、二肋骨骨折、上縦隔拡大⇒胸部大動脈損傷の可能性大。
・ 第九〜十二肋骨骨折⇒肝、腎、脾損傷の可能性がある。
・ 横隔膜輪郭が不鮮明、胸腔内異常ガス像(通常左側)⇒横隔膜破裂。
・ 縦隔気腫、皮下気腫⇒気管、気管支損傷、食道損傷
・ 胸骨骨折⇒大動脈損傷や心損傷の検索を。
・ 血気胸⇒肺損傷
3.緊急外科コンサルトを要するもの
A) shock → CVP(↓)、頸静脈怒張(-) ⇒⇒ 大量血胸、腹腔内出血、骨盤骨折
CVP(↑)、頸静脈怒張(+)、チアノーゼ ⇒⇒ 緊張性気胸、
心タンポナーデ、Traumatic asphyxia(胸部圧挫症候群)
* 緊張性気胸 ⇒ 片側性の呼吸音減弱、消失やtympanic percussion
⇒ 胸部レ線を待つゆとりはない。患側の第二肋間から18番針数本を刺入し減圧
を計る。
続いてチェストチューブを挿入する。
* 心タンポナーデ ⇒ 両側の呼吸音は正常。心音減弱、または消失。
心エコーで確診し、心嚢ドレナージを行う。
緊急手術。
*Traumatic asphyxia ⇒ 意識下に大きな外力で胸部が圧迫されて起こる。顔面鬱血、チアノーゼ、
結膜の点状出血。呼吸管理、上半身のベッドの挙上(約30度)
B) Respiratory distress
・ 鎖骨上窩,肋間の吸気性陥凹,チアノーゼ ,stridor → 上気道閉塞 → 下顎挙上,口腔内吸引,
異物除去,気道確保,酸素吸入,血液ガス,末梢ライン確保
・片側の呼吸音減弱、消失,
同側のtympanic percussion,皮下気腫、頸静脈怒張 → 緊張性気胸 →
胸腔ドレーン挿入,酸素吸入,血液ガス,末梢ライン確保
・胸壁動揺(合併する肺挫傷や疼痛管理が重要) → flail chest → 気道確保,胸腔ドレーン挿入
・偏側の呼吸音減弱、消失 → 血気胸、外傷性横隔膜破裂。
・気管内出血、喀血 → 気管、気管支損傷の可能性あり。
*上気道閉塞 ⇒ 意識障害のある患者の舌根沈下がもっとも多い。
他に、いれ歯、喉頭、気管損傷等。下顎の挙上, 異物除去、air way の挿入、
トラヘルパーの刺入。
* Flail Chest ⇒隣り合う肋骨の多発骨折がみられる。肺挫傷や血気胸を伴うことが多く、
重症例では気管内挿管、レスピレータ ーケアーとなる。
*横隔膜破裂 ⇒ 通常左側に起こる。確定診断は困難なことが多いが、胸部レ線での胃胞の
高位置、横隔膜輪郭の不鮮明化、胸腔内腸雑音は診断の手助けとなる。緊急手術。
C) 胸部刺創 → 刺さったままの凶器は絶対抜かない。抜くと一気に失血死する恐れがある。
上腹部や頸部刺創でも胸腔内に達している可能性がある。下部胸腔の刺創では逆に
腹腔に達していることがあるの、腹部の診察も忘れずに。
血気胸の有無を確認
D) open sucking wound → 胸部の開放創から吸気性の空気の流入でおこる。ガーゼなどで
閉鎖し,直ちに胸部レ線をとる。胸腔チューブの挿入が必要な
ことがある。
E) 血気胸、多発肋骨骨折→36ないし38Fのチェストチューブを第五肋間から挿入する。
(胸腔チューブからの出血が200ml/時間以上が3時間以上続きときは緊急手術)
4.見落とすと致命的になる胸部外傷(初めバイタルが安定していることあり。)
a)胸部大動脈損傷←交通事故や転落等の減速外傷では常に念頭に置かなければならない。
<ヒント>・上縦隔の拡大(8cm以上)
・第1,2肋骨骨折
・大動脈弓の消失
・左肺尖部apical cap
・大動脈と左肺動脈の間の空間の消失
・気管支の圧排所見(主気管支の右方圧排・右気管支の右方圧排・左気管支の下方圧排)
・食道の右方圧排(経鼻胃管が右に偏位)
・右傍頚椎線(paraspinous interface)の偏位
・左血胸
b)食道損傷 → 頻度としては希である。縦隔気腫、皮下気腫に注意。
(ガストログラフィンにて診断)
c)気管、気管支損傷→皮下気腫、縦隔気腫、血痰。
d)肺挫傷 →初めは低酸素血症のみで、胸部レ線は正常なことがあるので注意。
患者の状態が許せばCTが有用。またARDSの管理を十分に行う。
e)心損傷 →ECGで異常があれば、ECGモニターし,ハートグループコンサルト。
f)肋骨骨折→合併する臓器障害を同定すること(胸腔内臓器や腹腔内臓器損傷について)。
バストバンドは呼吸抑制を引き起こすことがあるので,使用は要注意(特に老人)
5. 帰宅時の指導
1)呼吸困難や発熱時、胸痛増強時、すぐに救急受診するよう指導する。
2)外科外来に翌日あるいは一番近い外来日に受診させる。