救急診療の心得


1心構え
 診療とは患者と向かい合い、その人の抱える医療問題を解決するための方針を決定する事であり、その積み重ねこそが患者を診る力(臨床力)をつける方法である。患者は体の不調に不安をつのらせて、あるいはパニック状態で救急室に駆け込み、そして診察室に呼ばれるまでには十分に待たされている。私達の「待ちましたか?」のひとことで患者は救われる思いになり、私達も救われる。患者の病院に対する苦情の大部分は誤診そのものより医療者側の態度に腹をたてている場合が多いものである。
2引き継ぎ
午後7時30分〜午前7時30分(内科系1次救急担当)
午後5時〜午前8時(内科2時救急担当)
3診療
 救急室は患者の状態に見合った処置を行いながら、限られた情報から出来るだけ速やかに診断に辿り着き、原疾患の治療を開始する事を要求される。症状からある程度の疾患群を推定し、治療をどう攻めてくか(どんな検査が必要か?今しなければいけない処置はあるか?すぐに入院させ、スタッフにコンサルトすべきか?救急室で経過観察すればいいのか?帰せるのか?)を決定する。方針が立たなければスタッフに相談すること。
 重症度の分類(救急室での大失敗は患者重症度を誤ることである。)
 
1)直ちに治療を要する。 A-1群(ショック、心不全、意識障害等)
2)入院して治療を要する。 A-2群(細菌性肺炎、急性虫垂炎等)
3)外来でフォローアップすべき。  B-1群(骨折、喘息、縫合後等)
4)その場限りの処置で帰してもよい。 B-2群(風邪、胃腸炎、擦り傷等
 
B群の帰す場合、こちらの説明を聞いているようにみえて、まったく理解してない患者が多いので、救急センターにあらかじめ用意してある説明書を利用してほしい。(小児の発熱、下痢、頭部外傷、麻疹、水痘、流行性耳下腺炎等)
 重症度の目安
  1)意識水準の変化 2)Vital Signs  3Daily Activityの変化を考慮する
1)意識障害はすべて救急である。
2)Vital Signs の異常は発熱を除いて重症と考える
  ○呼吸;呼吸数、深さ、雑音
  ○血圧;低血圧≠ショック=末梢循環不全→尿量、意識状態
  ○脈拍;頻脈、徐脈、不整脈
3Daily Activityのチェックとは、
 ○水分 ○食事 ○会話 ○坐位 ○立位
 ○歩行 ○排尿 ○排便 ○体重 ○仕事
 以上10項目にひとつでも異常があれば、重症の可能性があるかまたは何か疾病が存在する可能性がある。
 

救急の鉄則

  1. 重篤な疾患から考える。
  2. 患者の重症度を間違わない。
  3. 可能性の高いものから診断して行く。

  4.    (診断に至るための最短距離の選択)
  5. 思考中断してはならない。 
  6. 病態を論理的に把握する。

  7.    (病歴,理学所見の取れない患者は要注意)

    *症例による提示

(4) カルテの記載;必ず記載すべきもの
(a)診療開始時間
(b)年令、性別、主訴、既往歴、現病歴、診察所見
 検査所見、鑑別診断、診療計画、サイン
(c)患者を帰宅させる時、最後にハッキリ「帰宅可」と書いて自分のサインをし、
 カルテの第一ページに診断名、レセに主訴、診断名、転帰と自分の名を書く
(e)コンサルトしたら、○時○分、Dr.○○、○○科、コンサルトすみと記載する
(f)経過観察中の診察所見や指示の変更時は、その時間を記載しサインする。
 カルテ記載の極意
_既往歴、現病歴は詳しく(聴取困難な場合は後まわし)
_診察は主訴、現病歴に関係のある点に絞る
_記載は簡潔にとどめる
5Consultation
(a)簡潔に!ポイントをおさえて! 
    *重症患者の至急のConsultationは「交通事故でショック」「吐血でショック」で十分!
(b)当直表にその日の各科のスタッフ名がある。特殊診療科専門医はオンコールである。
(c)他院からの紹介患者は原則として全例入院させる。その紹介状が特定の医師あての場合は、必ずその医師に連絡し指示を仰ぐ
(d)当院で外来通院中の患者の場合はその主治医と連絡をとる。意外と簡単に解決出来ることがらがある
6経過観察
長時間経過観察を要するものは原則として入院させるが、帰宅が可能な場合はきちんとした目的のもとに経過観察・治療する。
#安静度(ベッド上、歩行可)
N.P.Oか経口自由か
#観察事項(血圧、尿量、意識レベル、喘鳴等)
7輸液
目的を明らかにする。(脱水の補正?、何となく?)
目的により輸液の種類、量、速度は決まってくる。
8検査
1)検査の目的、理由
2)検査結果の予想
3)検査結果により診断、治療が変わるか?
4)検査の途中で患者の状態が急変しないか?
  救急室から離れているレントゲンや時間のかかるCT検査などで
5)検査の優先順位
6)今必要な検査か?検体保存か?明日でも良いか?
7)緊急検査項目(午前8時〜午後3時以外は緊急検査項目に限られる。)
-CBC(白血球数、ヘマトクリット、血小板数等)
-Chemi(BUNCrNaKCLBil、アミラーゼ、ケトン体等)
-U/A(比重、浸透圧、蛋白、糖、アミラーゼ、ケトン体)
-ABG(PHPco2Po2Hco3BESatO2) 
-髄液、腹水、関節液、胸水/A
-心電図や尿  
(9)X線撮影
重症患者の場合、救急室での出張撮影を依頼するか、判断しなくてはならない。
 救急室で撮影を依頼する例(バイタルや症状が急変しうる患者)
 心筋梗塞、重症呼吸不全、多発外傷、ショック、胸部外傷など
どこを見るか、何を見るかで撮影の指示の出し方もちがう。
スタッフに相談し、患者を2度、3度と放射線科へ通わせないようにする。
レントゲンの示指用紙には撮影の目的と簡単な病歴、所見を記入し、自分の名前をサインする。
10その他
  1. 患者に腹を立てたり、見栄やプライドでコンサルテーションしなかったばあいに誤診する。
  2. カルテに記載されてある診断名を信じて大失敗をすることがある。
  3. 頻回に救急センターを訪れてくる患者は
  4. 救急室の時点では症状が安定してない事が多いので診断書は原則としてスタッフに相談する。