【発熱】
発熱は救急室受診小児患者の主訴で最も多く,約半数を占める.したがって,小児の発熱のマネージメントは小児救急外来の中でも最重点項目である.

〈定義〉:臨床的に有意な発熱は,便宜上38℃と考えて良い.ただし,正常体温には次の因子が関与している.
1. 個人差,年齢差がある(新生児では37.5℃でも正常)
2. 日内変動がある(朝低く,夕方高い)
3. 測定方法により異なる(腋窩より直腸が約0.5℃高い)

〈原因〉
1. 最も多い原因はウイルス感染である(約90%).──URI,気管支炎,肺炎など
2. 中耳炎,尿路感染症も比較的多い
3. 非感染性の原因もある.──膠原病,血液・悪性腫瘍

〈診察・診断のポイント〉
1. 重症度の評価が最も大切.(Sick/Toxic? or Not sick?)
全身状態が不良なサインとしては,@あやしても泣きやまない,笑わない.非常に不機嫌である.周囲に関心を示さずぐったりしている.A解熱剤で(一時的に)熱を下げても全然元気がない.B水分も十分にとれず,脱水の所見がみられたり,尿量が減少している.C皮膚が蒼白,チアノーゼ,まだら模様など.
  母親が "普段と比べて明らかにおかしい,きつそう"などと訴える場合は要注意のことが多い.母親の話も判断材料のひとつにする余裕は必要である.

2. 発熱以外の異常症状がある場合はそれぞれの項目を参照して診察を進める.
(例)
・ 明らかな上気道炎症状(鼻汁,鼻閉,くしゃみ,咳)→URI
・ 口腔内所見→咽頭炎,口内炎,麻疹などの発疹性疾患
・ 咳が強い,咳で嘔吐.→肺炎,気管支炎
・ 嘔吐,下痢,腹痛→胃腸炎   など

3.発熱以外の症状がハッキリしない場合
・ 全身状態良好,3日以内の発熱→(症状が続くなら外来受診するよう説明して)帰宅可
・ 全身状態良好,4日以上の発熱→採血(CBC,CRP),検尿などのワークアップ or 翌日外来受診
・ 全身状態やや不良〜不良→輸液,酸素投与など必要に応じた対症療法,同時に採血,検尿,画像検査などの原疾患検索を積極的に行う.(要コンサルト)

4. High risk groupはより慎重な診察,判断が必要.(要コンサルト)
・ 生後3ヶ月未満の乳児(特に1ヶ月未満の新生児)---重症感染症の一症状の可能性があり,原則としてseptic work up, 入院加療が必要になる.
・ NICUに入院していた児(特に極低出生体重児,長期人工呼吸管理児)
・ 先天性心疾患児(無脾症候群など)
・ 免疫不全児(長期ステロイド投与,悪性腫瘍患者など)
・ その他,活動性の基礎疾患のある児

5. 感染症を疑った場合は細菌性か,ウイルス性かの判断が必要.
・ 帰宅させるか否か迷う場合,あるいは親が検査を希望する場合は,血液検査所見を判断材料にしてもよい.(経験を積むことで採血の必要性は減ってくる)
・ 多くはウイルス性で,全身状態も比較的良く,血液検査所見も異常がないことが多い.
・ 細菌性感染でも病初期は異常所見がみられないこともあるので注意する.

6. 見逃してはならない疾患:
・ 細菌性髄膜炎:重症感染症であり,絶対に見逃さないようにすべき代表的疾患.典型的な症状(頭痛,嘔吐,項部硬直)を伴わないことも多い.特に幼少児では高熱のみの場合もあり,発熱小児患者をみたらまず"髄膜炎は大丈夫かな?"と考える習慣は大切である.全身状態が良くなく,検査結果も明らかに異常の場合が多いが,病初期で全身状態が比較的良好の場合もある.ハッキリとassessmentがつかずに帰宅させる場合は,不機嫌,嘔吐,経口不良などの状態悪化のサインを十分に説明して早めに再受診できるようにする.発熱3日以上経過しているのに全身状態良好な場合は細菌性髄膜炎をほぼ否定できる.
・ 尿路感染症:幼少児では典型的な症状(膀胱刺激症状,腰打痛など)を伴わない.遷延する発熱や悪寒を伴うような場合,既往歴のある患者の場合は積極的に検尿を行う.
・ 敗血症,潜在性菌血症:全身状態,遷延する発熱などから考慮.
・ 川崎病:発熱以外にも多彩な症状がみられることが多いが,遷延する高熱では鑑別診断として重要.
・ 頻度は少ないが,慢性疾患(悪性腫瘍,膠原病)の症状としての発熱も注意が必要.全身状態が良ければ救急室の段階ですぐに診断をつける必要はないが,原因疾患がハッキリしない場合はレジにコンサルトするか,早い時期に外来回しにする.
・ 軽症疾患の中でも中耳炎は発熱の原因として比較的多いので,積極的に耳鏡検査を行う.(抗生剤を処方して小児科,あるいは耳鼻科外来へ回す.)

〈治療〉
発熱は治療すべきか?
発熱は咳,嘔吐,下痢,腹痛と同様に身体症状の一つであり,熱を下げることは必ずしも原疾患に対する治療ではない.解熱剤を投与されても,原疾患が変わらなければ熱が下がっているのは数時間にすぎない.従って,食欲が良好で機嫌も良く,全身状態が良好な場合急いで解熱させる必要はない.(実際は発熱による後述のような悪影響を考え解熱剤が投与される場合が多いが,)熱を下げたから原疾患が治るわけではないことを十分に理解してもらうことが大切.発熱はむしろ原疾患の活動性の指標としてみた方がよく,39℃以上の高熱や,解熱剤に反応しにくい熱などはまだ原疾患の活動性が高いという意味でも注意が必要であり,原疾患の鑑別診断や全身状態の把握がより重要になってくる.
解熱剤が必要な場合として,@発熱のために食欲不振,気分不良などがみられる場合.A熱性けいれんの既往のある場合.B慢性疾患を有し,発熱による悪影響が予想される場合などがあげられる.

〈我々の治療方針〉
1. 一般に38.5℃以上の時,解熱剤を投与する.(熱性けいれんの予防としては38.0℃の早い時期での投与がよい)
2. 解熱剤としてはアセトアミノフェン(10mg/kg/回)を4〜6時間の間隔で投与.(ERでは頓服として,30,60,90,120,150,180,240,360,480mgが用意されており,値の近い頓服量を処方する.)
3. スポンジバス(冷却法)
解熱剤に反応しない高熱に用いる.ぬるま湯,あるいは水道水に浸したタオルで全身を拭く.皮膚をこすり,毛細血管の拡張をはかり,体温の拡散を促す.
その他,氷枕を使用してもよい.
4. 家族への十分な説明,指導
・ 発熱そのもので障害が起こることはない.(ただし,熱性けいれんの既往のある子は積極的な解熱が必要)
・ 熱の高さは必ずしも疾患の重症度と相関しない.
・ 全身状態の観察が大切である.
・ 水分を十分に与える(脱水の予防)
・ 急激な体温上昇のおそれがあるため厚着はさせない.寒気や震えがなければむしろ薄着の方がよい.
・ 部屋を涼しくするなどの環境温度の調整も必要
・ 入浴は,全身状態がよければ許可する.

                     小児科 中村豊一