産婦人科
1.一般的注意事項
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問診にあたって
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婦人科疾患はプライバシーにかかわる事が多い。たとえ未成年でも家族に席を外してもらい、個室内で問診すること。
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妊娠反応の感度
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月経が規則的な人は、月経が1〜2日遅れただけでも、まず陽性となる。子宮外妊娠でも、ほぼ100%陽性となる。
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女性の嘔吐
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Cervical tenderness
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軽いCervical tenderness は誰でもみられる。
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乱暴な直腸診によるIatrogenic cervical tendernessを作り出さないこと。
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婦女暴行の場合
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主訴が生理痛の場合
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普通の女性が、生理痛で救急室を受診することもあるが、原因となる基礎疾患の存在を疑うこと。
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下腹部痛で来院の場合
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内科または外科→産婦人科という順番でコンサルトする。
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本人の言う「生理」は真の月経ではない事がある
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不正出血や切迫流産の出血を生理と思っている事がある。
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処置を急ぐべき患者は、問診途中でもスタッフを呼ぶこと
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腹腔内出血によるショックや便意を伴う陣痛は、緊急の対応が必要である。直ちにスタッフを呼び、一緒に診療すること。
2.ルーチンで問診すべき項目
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Age
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Single / Married, Remarried / Divorced / Separated
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再婚 / 離婚 / 別居
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Occupation
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Para [*][**][***][****]
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*現在生存する子供の数
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**499g以下 (妊娠19 6/7週以下)
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***500g 〜2499g ( 妊娠20 0/7週〜36 6/7週 )
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****2500g 以上 (妊娠37 0/7週以降)
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Menarche初潮 / Menopause閉経
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Menstruation 月経
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Cycle days. 周期 Regular/Irregular
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Duration days 期間
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Volume 量
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Symptom 症状. Dysmenorrhea 月経困難症
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L.M.P. (Last menstrual period) 最終月経P.M.P. (Previous menstrual period) 2回前の月経
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Last sexual contact 最後の性行為
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Contraception 避妊法
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Last PAP smear 最後の子宮癌検診
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その他必要に応じて、
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Coital pain . 性交時痛
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Post coital bleeding.性交後出血
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Menorrhagia 生理が長引く
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Metrorrhagia 生理以外の出血がある
3.性器出血の原因
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妊娠性
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妊娠前期
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流産(切迫・進行・不全・稽留流産)
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子宮外妊娠(ただし腹腔内出血が主)
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妊娠中期&後期
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前置胎盤
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常位胎盤早期剥離
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産徴
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産後
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弛緩出血
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胎盤遺残
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妊娠中期以降の性器出血は、内診前に必ずエコーで前置胎盤の有無を確認する。そうと知らずに内診すると大出血を起こす。
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非妊娠性
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10〜20代
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無排卵
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凝固機能異常
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30代
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子宮筋腫、子宮腺筋症
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子宮内膜ポリープ
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40代(上記1.2.に加えて)
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子宮内膜過形成
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無排卵
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50代以上
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子宮頸癌
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子宮体癌
☆その他(しばしば見られるもの)
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性交後出血
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排卵時出血
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子宮頸部びらん
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不完全な子宮内容除去術後
4.急性腹症の原因;婦人科急性腹症の99%は以下の8つのどれかである。
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腹腔内出血
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子宮外妊娠
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ショックの若い女性をみたらまず子宮外妊娠を考えよ?
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若い女性の「今、生理中です」にだまされるな!不性器出血を「生理」と言うことがある。
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黄体性卵巣出血
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卵胞性卵巣出血
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チョコレート嚢胞の破裂
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下腹部腫瘤
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子宮付属器の茎捻転
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子宮筋腫の変性
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感染症
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骨盤腹膜炎(PID)※肝臓周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)
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その他
5.骨盤腹膜炎(PID=Pelvic
Inflammatory Disease)
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臨床症状による診断基準(Obstet-Gynecol.vol 61.p113.1983)
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Major criteria(3つとも満たしている事が必要)
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腹部の直接的圧痛±反跳圧痛
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子宮頸部及び子宮体部の可動痛
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子宮付属器の圧痛
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Minor criteria(1つ以上必要)
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子宮頸部粘液の染色でグラム陰性双球菌の貪食像
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38度以上の発熱
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10000 / mm3の白血球増加
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ダグラス窩穿刺又は腹腔鏡により腹腔内の膿を採取
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内診又はエコーで骨盤内膿瘍か炎症性腫瘤を同定
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虫垂炎との鑑別診断
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急性PID
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急性虫垂炎
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1.全身状態 |
腹痛の割には全身状態が良く、元気。 |
Sickで元気が無い。 |
2.自発痛の部位 |
発症後24時間たてば両側下腹部痛となる。 |
最終的には右下腹部に限局する。 |
3.圧痛点 |
両側下腹部 |
Mc Burney 点 |
4.食欲 |
良好(NPO にすると、空腹を訴えるのが特徴) |
無い。 |
5.悪心・嘔吐 |
少ない。 |
高頻度。 |
6.白血球数 |
重症度とは必ずしも比例しない。 |
重症度と比例する。 |
7.エコー所見 |
診断上の価値は低い。 |
診断上有用である。 |
8.その他 |
いわゆる“PID ルック"性体験との関連 |
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☆未婚女性(小児も含む)で虫垂炎が穿孔を起こすと、強度の骨盤内癒着の為に将来の不妊症の原因となる。鑑別診断上迷いがあれば、必ず外科にもコンサルトすること。
6.Fitz-Hugh-Curtis症候群(肝臓周囲炎Perihepatitis
)
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原因
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PIDの起炎菌による肝臓周囲炎で、PIDの10〜30%に見られる。
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症状
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急性PID の発症後、数週間後に発症する。
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突然の右季肋部〜上腹部痛で発症。
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痛みは、深呼吸・体動・咳・しゃっくり等により増強するのが特徴。
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微熱、上腹部圧痛、右CVA knock painを伴う事あり。
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診断腹腔鏡で肝臓表面と横隔膜との間のViolin string状の索状物による癒着を確認する事により確定する。
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注意事項
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右季肋部痛で発症するので、患者は内科・外科を受診する事が多い。若い女性の右上腹部痛にご用心!
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他覚的所見は非特異的なものが多い。よって、現病歴と患者のタイプ(PIDと同じ)
から、この疾患を疑う事が出来るかどうかが診断の分かれ目になる。
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PIDを伴うあるいは既往のある妊娠可能な女性の右季肋部痛はFitz-Hugh-Curtis症候群を考えよ。
7.腹腔内出血の管理方針
☆但し、エコー所見によっては必ずしもこのとりにおこなわないこともある。これはあくまでも一つの目安である
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