ショック
定義;
ショックとは末梢循環不全に伴う組織・臓器の血流の不全状態であり、一般には血圧が低下し、重要臓器の障害を少なからず伴う。したがって、ショックは以下の様なさまざまな原因でおこり、それぞれの患者で病態、治療も多様である。
ショックの進行
(stage)
;
@ショック準備状態、
A可逆性ショック、
B難治性
(refractory)
ショック、
C不可逆性ショックの順に進行する。
したがって、早期診断・治療が予後を決める。
血圧=心拍出量×末梢血管抵抗=
1
回心拍出量×
1
分間の脈拍数×末梢血管抵抗
血圧が下がれば、脈拍は増え、末梢血管抵抗は増すように生体防御は働く。脈拍が最高血圧よりも高い場合はきわめて大切なショックの早期診断手がかりとなる。
分類;循環動態から、以下の様に分類される。
▲循環血液減少性ショック
原因;出血、脱水、熱傷など
▲心原性ショック(ポンプ不全)
原因;急性心筋梗塞、心筋炎、心筋症など
▲末梢血管抵抗低下性ショック
原因;敗血症、アナフィラキシー、脊髄損傷等
▲閉塞性ショック
原因;心タンポナーデ、緊張性気胸、肺梗塞等
覚え方
S
hock
;
s
eptic,
h
emorhagic,
o
bstructive,
c
ardiogenic, anaphylacti
k
診断;症状、徴候、所見により診断する。
▲ショックの
5
徴
(5P's)
;
Pallor (
蒼白
),
Prostration(
虚脱
),
Perspiration(
冷汗
),
Pulselessness(
脈拍触知不良
),
Pulmonary deficiency(
呼吸不全
)
▲意識障害;
脳循環が低下して意識障害は起こるので、軽度の不安を訴えることが多いが、重症になると不隠、混濁、昏睡となる。
▲皮膚所見;
身体全体が冷たく、冷汗、蒼白になっている場合は低心拍出で交感神経系が過度に緊張し2次的に末梢血管抵抗が増しいることを示している。ただし、敗血症性ショックの
hyperdynamic state
では皮膚はむしろ暖かく、末梢血管抵抗は低い
(warm shock)
。
▲呼吸;
意識レベルの低下が中等度以下の場合には呼吸促迫となる。重症になってアシドーシスが加わると呼吸は深くなる。
▲脈拍;
頻脈となり、脈圧は小さく(≦
30
)なるので触知し難くなる。
▲血圧;
心原性ショックでは収縮期血圧
90mmHg
以下、あるいは普段の血圧より
40mmHg
以上の低下をショックとすることが多いが、この基準はどの原因によるショックでも一応の目安となる。
▲尿量;
尿量は腎血流量とよく相関しているので、ショック時は時間尿量が通常
20ml/
時以下となる。利尿剤未使用で時間尿量
20
〜
30ml/
時以上の維持が治療の目安となる。
▲代謝性アシドーシス;
末梢循環不全に伴い嫌気性解糖がおこり、乳酸が蓄積される。ショックの初期の段階では代償できるが、
PH
≦
7.1
まで進行すると重曹による補正が必要である。但し
early shock
時
−特に敗血症時は呼吸性アルカローシスを示すこともある。
モニタリング
▲血圧、心拍数、心電図
▲呼吸、血液ガス
▲尿量、中心静脈圧
(CVP)
、
Swan-Ganz
カテーテル
治療
基本的な治療の原則
▲循環動態の是正;
ショックでは原因の如何にかかわらず少なくとも末梢循環不全はあり、しっかりと
ABC
をチェックし、 必要があれば気道を確保、人工呼吸、酸素投与などを行う。次に静脈路を確保し末梢循環不全の改善を試みる。一般には輸液を負荷して循環状態の回復をはかるが、効果がなければ昇圧剤の持続点滴を加える。輸液の種類は主に乳酸加リンゲル液か生食液の電解質液を十分量(
2
〜
4L
)用いる。さらに容量負荷が必要な場合はアルブミン製剤のようなコロイド液を補助的に使用する。大量出血時は新鮮凍結血漿、血液も考慮する。昇圧剤は比較的不整脈を生じにくく選択的に心筋収縮力を高めるドパミン、ドブタミンが主流である。使用時は必ず十分な輸液を行わなければならない。
▲原因疾患に対する治療;
循環動態の補正はあくまでも対症療法であり、その原因に対する治療が根本治療となる。
出血性ショック;止血をはかる。
敗血症性ショック;抗生剤の投与。
心原性ショック;心筋梗塞→再灌流療法。
アナフィラキシーショック;エピネフリン。
▲ショックに伴う臓器障害に対する治療;
末梢循環不全に伴い
ARDS
(成人呼吸窮迫症候群)、
腎不全・肝不全、消化管出血、
DIC
(播種性血管内凝固症候群)、
MOF
(多臓器不全)を合併し、死因となりうるのでそれに対する治療も怠ってならない。
ピットホール
▲血圧の絶対値だけで判断してはならない。常に、普段の血圧とも比較して判断する。
▲一般に頭蓋内疾患にショックなしが原則である。他の疾患の合併はないか考える。
▲
Tilt test
を有効に使う。ショック準備状態でかろうじて保っていた血圧は
Tilt test
により−体位変換による負荷により代償作用を一次的に破綻して−下がるので、ショックの早期診断の糸口となる。
▲敗血症性ショックの初期は患者はあまり苦痛を訴えない。脱水+発熱と見誤り、ショックを長引かせてはならない。輸液1
L
を急速負荷をして血圧の上昇が認めなられなければ、敗血症性ショックとして扱い抗生剤を始め、尿量、中心静脈圧をモニターし昇圧剤を開始すべきである。
▲激痛を伴う腹腔内出血ではショックでも頻脈とならないことがある。