めまいは日常診療上しばしば遭遇する症状である。その原因は良性であることが多いが、「倒れてこのまま動けなくなるのではないか」と患者は不安で一杯である。したがって、めまい患者を取り扱う上で大切なことは絶対に見落としてはならない重篤な疾患を正しく診断すると同時に、患者の不安を解消することである。1.めまいの診断には病歴が最も大切
病歴聴取のポイント<問診>患者の訴えるめまいは大きく分けて次のいずれかに属する(ただし、臨床の場ではこの区別は必ずしも容易ではないが)。
- 回転性めまい(true vertigo):外の景色あるいは自分がぐるぐる回る。
- 立ちくらみ:眼前暗黒感、失神直前の状態(presyncope)→失神の項参照。
- ふらつき感:足もとがフラフラする、動揺感→中枢性平衡障害(脳虚血)。
1)めまいの性質について※中枢性か末梢性かの一般的な鑑別にはならないが、疾患によっては重要。
- 回転性か非回転性か
- 発作性か持続性か
- 持続時間
2)随伴症状について
回転性めまいの鑑別に必要な病歴の取り方
- 耳なり、
- 難聴
※末梢性に多い- 頭痛
※激しい場合は中枢性を疑う。- めまい発作前2週間以内の上気道炎の有無。(これは前庭神経炎の診断基準項目である。)
- 脳神経症状、小脳症状の有無
※認めれば中枢性
- 頭痛を伴うか否か:頭痛あり(危険なめまい)→くも膜下出血、脳幹部出血、小脳出血、脳幹部梗塞(とくに動脈解離)
- 蝸牛症状(聴覚症状)を伴うか否か:耳鳴・難聴→メニエル病、突発性難聴、Ramsey Hunt症候群、中耳炎
- 動作により誘発→良性発作性頭位変換性眩暈症、悪性発作性頭位眩暈症、頚性めまい、subclavian steal syndrome
- 自発性めまい(誘発されないめまい)
- 持続性→前庭神経炎、脳幹部梗塞(ワレンベルグ症候群など)
- 一過性→脳幹部虚血発作
危険なめまい(頭痛を伴うめまい)→ただちにCTを行う。
- くも膜下出血
- 脳幹部出血
- 小脳出血
- 脳幹部梗塞(とくに椎骨脳底動脈解離)
注意:めまい以外に神経徴候が見られない場合でも、脳幹部・小脳梗塞は否定できない。症状が持続するときは入院させて観察が必要。
- メニエル病
- 突然起こる激しい自発性の回転性めまい、耳鳴、難聴が特長。1〜2時間持続して症状は消失する。
- 回転性めまい発作(30分〜数時間)を反復する。繰り返すと耳鳴や聴力の低下が持続するようになる。
- 耳なり、難聴を伴い、めまいと共に消長する。
- 中枢性ならびに原因既知疾患の所見がない。
- 耳鼻科に紹介すること。
- 前庭神経炎
- ウイルスによる前庭神経の障害。
- 先行する上気道感染症がある。
- 持続性のめまい(1~2時間では良くならない)。
- 診断はカロリックテスト→眼振は誘発できない。
- ステロイドの適応がある。
- 突発性難聴
- ウイルスによる蝸牛および前庭神経障害。
- 先行する感染症がある。急激に発症する高度難聴、めまいで来院する。
- めまいを伴うときがあり、時にこれが主訴となり難聴が見逃されるときがあるので注意。
- メニエル病に比べて持続時間が長い。
- 先行する感染症がない場合には内耳動脈の閉塞を考える。
- 発症2週以内の早期治療が必要なので早期に耳鼻科にコンサルトする。
- 良性発作性頭位変換性眩暈症:最も多いめまいの原因である。
- 耳石障害が原因で起こる。
- 中年以降に好発。
- 頭を急激に動かしたときに起こるが、めまいを誘発できる特定の頭位がある(critical position)。回転性めまい。
- めまい頭位での純回旋性眼振
- めまいの持続は30秒以内。
- 頭位変換を繰り返すとめまいは起こりにくくなる(habituation)。
- 耳なり、難聴は伴わない。
- 数日~数週間持続してから自然によくなるが、再発しやすい。
- 診断にはHallpike法が大変有用。回転性と垂直性の眼振が同時に見られる。
- できるだけ、めまい頭位にして慣れるように指導する。
- 悪性発作性頭位眩暈症(Bruns症候群)
- 特定の頭位でめまいが出現し、その頭位をとり続ける限り持続する。
- 繰り返し特定の頭位をとっても、めまいは誘発できる。
- 脳幹部病変に特徴的→画像診断が必須。
- Ramsey Hunt症候群
- 帯状ヘルペス感染による末梢性顔面神経麻痺、耳介・外耳道・鼓膜の水泡形成、めまい、難聴、耳鳴を主徴とする。
- アシクロビールの適応となる。
- 慢性中耳炎の際の内耳炎
- 慢性中耳炎とめまいがあり
- 瘻孔症状(Politzerゴム球で外耳道に空気を加圧するとめまいと眼振が起こる。)
- 抗生剤の投与
6.その他
- 原因の治療が第一であるが、不快な症状を取り除く対症療法もまた大切。
- ジアゼパム(ホリゾン)の静注やトラベルミンの筋注(緑内障とBPHには禁忌)、メイロンの投与を行う。悪心や嘔吐がなければメリスロンあるいはセルシンを経口投与してもよい。
- これで軽快し、経口できるようであれば、内服処方を持たせて帰す。軽快しなければ一晩観察して耳鼻科又は神経内科にコンサルトする。末梢性めまいとして帰宅させる場合は、生命を脅かすものではないことを納得させ、1週間内に安静でよくなることを十分に説明する。
- 内服処方例
メリスロン(6mg) 3T/3
セルシン(2mg) 3T/3- めまい、悪心、嘔吐が強く食事がとれない場合入院の適応がある。