けいれん
けいれん重積状態が持続すると脳神経細胞が死滅るだけでなく生命の危機をも来す。緊急の治療とは原因のいかんを問わず早急に(1時間以内に)発作を止めることである。
1.けいれん重積状態で搬入された患者の取り扱いかた
けいれん重積状態とは
発作と発作の間に意識の回復が見られない場合
ひとつの発作が長時間持続する場合(通常の発作は2分程度持続)
※搬入時にけいれん状態にあったり、意識がない場合は重積とみなしてよい
治療の対象は全般性強直間代性けいれん(小発作や精神運動発作重積状態は含まない)
診療の順序(診断と治療は同時に行う)
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横臥位にして吐物の誤嚥防止、口腔・鼻腔内吸引
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バイタルサインのチェック、心電図モニターの装着
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気道確保、酸素投与
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ベッドからの転落を予防するために柵を上げること
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咬舌予防;けいれん時は舌圧子は原則入れない。
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静脈確保 エラスター針を使用して2本確保
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採血(CBC,BS,Na,CL,K,BUN,Creatinine,Ca,ABG、抗てんかん剤濃度測定)検尿(横紋筋融解症によるミオグロビン尿症の有無)
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グルチェックで低血糖があればブドウ糖液を静注(50%40ml)。VB1(サイアミン10mg)静注も同時に行う。
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抗けいれん剤の投与(静脈内投与が原則)
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ジアゼパム(ホリゾン)の静注:10mgをゆっくり(2分かけて)静注。ほとんどの発作は2分以内に止る。投与後5分経過しても発作が持続する時は同量を追加投与する。呼吸抑制に注意。効果は20分しか持続しないので、持続時間の長い抗けいれん剤を直ちに開始する必要がある。
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フェニトイン(アレビアチン)の静脈投与:15mg/kgを50mg/分以下のスピードで点滴静注(高齢者では25mg毎分以下)。必ず心電図モニター、血圧測定を行い、不整脈や低血圧がみられたら投与スピードを遅くするか、いったん中止しして回復を待ち再開。この間に発作が再発すればジアゼパムの追加投与を行う。
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ジアゼパムとフェニトイン静注でも発作が止まらない場合どうするか→フェノバルビタール200mgの筋注を行う。呼吸抑制に注意。
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1時間以内にけいれんが止まらない場合→サイアミラール(イソゾール)の持続点滴(ICUで挿管後に行う)。
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原因の検索およびその治療の開始
採血の結果をチェックして必要な処置を行う。また、必要に応じてCT、腰椎穿刺を行う。
2.初回けいれん患者の取り扱いかた
診断の順序
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病歴の聴取、発作型を知ること。発作を目撃した人から聞くことが大切。
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採血、検尿、心電図
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単純CTを行う。造影CT やMRIはスタッフと相談して行うこと。
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緊急の脳波は必要としない。ただし、脳炎が疑われる場合は必須となる。スタッフと相談すること。
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腰椎穿刺の適応:くも膜下出血や脳髄膜炎を疑った場合。前もってCTを行い異常がないことを確認しておくこと。まれに発作自体で髄液の細胞増多が起こることがある(5〜10
、主としてリンパ球)。
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検査で異常があるときは入院させること。
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検査に異常がない場合→抗けいれん剤は開始しない。脳波検査を予約し、神経内科外来に紹介すること。
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注意:救急室で起こる間違い
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一回しか起こっていない発作をてんかんと呼ぶ間違い(てんかんとは中枢神経の異常により繰り返し起こってくる発作)。
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安易に治療を開始する間違い。→治療開始に伴う問題点は長期間の服薬およびそれに伴う副作用、生活上の制限、とくに車の運転禁止、仕事を失う恐れ、社会からの阻害などがあることを忘れないこと。
3.抗けいれん剤服用中の患者が発作を起こした場合
診断の順序
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発作の主な誘因を知ること。
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大部分は服薬の中止による(ノンコンプライアンス)。
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感染症やその他の疾患の合併、発熱(閾値の低下、代謝の亢進、追加された薬剤との相互作用)
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不眠・精神的ストレス、飲酒
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投薬内容の変更、投薬内容が不適切
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新しい脳内疾患の出現
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治療抵抗性
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外来カルテより服用中の薬剤名、用量を知ること。他の病院に通院中の患者の場合、電話で問い合わせて情報を得ること。家人に薬を持参して貰ってもよい。抗てんかん薬に対するアレルギーの有無の確認も重要。
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検査: 血中濃度測定、血糖、電解質、CBC,BUN
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血中濃度の解釈の仕方: いずれも専門家の意見を参考にすること。
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血中濃度が治療域より低い場合:ノンコンプライアンスが最も多い。服薬指導の強化が必要。
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指示に従って内服している場合には増量(フェニトインの場合は25mg単位、その他は1錠単位で)が必要。
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治療域内から少し超えた値の場合:多少の増量(フェニトインで25mg)が必要。
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明らかに治療域を超えている場合:他剤の追加が必要。
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検査結果および指示内容を添えて主治医の外来へまわす。
抗けいれん剤の治療域
薬剤名(商品名) |
治療域(μg/ml) |
フェニトイン(アレビアチン) |
10〜20 |
フェノバルビタール(フェノバール) |
10〜30 |
バルプロ酸(デパケン、ハイセレニン) |
50〜100 |
カルバマゼピン(テグレトール) |
4〜8 |
ゾニサミド(エクセグラン) |
10〜30(外注) |